家族信託の具体例と解説

  1. TOP
  2. 事業内容
  3. 家族信託
  4. 家族信託の具体例と解説

家族信託と一言でいっても、問題となる家族の形態や信託財産の種類、状況などによって利用方法は様々です。
ここでは具体的な事例と、家族信託を利用した場合の解決策、家族信託にまつわるよくある質問をQ&A形式でご紹介します。家族信託という制度を少しでも身近に感じていただき、資産を遺す人にとって自分が希望する豊かな余生を送ること、遺されたご家族が円満に資産を引き継いでいけることを実現するための方法として、知っておいていただけると幸いです。

CASE.1 一戸建ての自宅を残しておきたい

具体事例

現在、古い一軒家に一人暮らしをしている85歳の母親がいます。最近、少し足腰が悪くなってきていることから、高齢者施設への入居を考えています。ときどきは自宅に戻って過ごしたいため、現在の家はそのままにするつもりのようです。息子が一人いて、この息子と一緒に家族信託を検討しているそうですが、この場合どのような対策が考えられるでしょうか?

現在の状況 

  • 現在、古家に一人暮らし→そろそろ安心できる施設へ移り住もうかと思案中
  • 家はそのままにして、将来必要があれば得るなり貸すなりしてもいいかと考えている

家族信託を利用しないと・・・

母親が認知症などで意思判断能力を喪失すると、息子は自宅を売却することも活用することも困難になってしまう!

解説

施設入所と同時に自宅の所有者である母親を委託者、息子を受託者、そして受益者を母親とする信託契約を、母が元気なうちに息子と締結します。
母親は入所後、好きな時に自宅に戻って過ごすことができます。そして、徐々に意思判断能力が低下し判断できなくなった場合、息子の判断でその不動産を処分することも、他に貸すこともできます。
自宅を売ったときの売却代金は受益者である母親のものですので、その管理を息子が行い、母親のために有効に使うことになります。最終的に母親が他界し現金が残ったら、これは相続財産として息子が取得することになります。

CASE.2 マンションを新たに建築する場合

具体事例

土地所有者である父親は90歳で、子供は長女1人、そして長女の子である孫が1人います。その孫は父親の養子に入っており、そのため、実質的な相続人は2人です。
父親は相続税対策のため空き地にマンションを建築する予定であり、建物の完成まで2年ほど期間を要するといわれています。その間に父親の意思能力や判断能力が喪失した場合、完成後のマンションはどうなるのでしょうか?

現在の状況

  • 父親が所有の土地にマンションを建築
  • 長女と養子に入っている孫が相続人

家族信託を利用しないと・・・

竣工までに父親が意思判断能力を失ったら、銀行からの融資や建物の引渡し、賃貸借契約が難しくなる!

解説

家族信託を利用するとどうでしょうか。今回のケースでは相続人の一人に孫がいます。この孫を受託者として設定して、土地については委託者を父親(孫からしたら祖父)、受益者も父親という建付にします。そして、建築の請負契約も受託者として孫が契約します。さらに、借入金の申込も受託者として孫が行います。
最終的に2年経ってマンションが完成するまでに、仮に父親が意思判断能力を喪失したとしても、新築のマンションは信託財産として受託者の名義で登記をし、受託者が金融機関との手続きを遂行します。しかし、受託者は父親なので、その不動産からの家賃収入、借入金の返済などはすべて受益者である父親が負担することになります。つまり、孫である受託者が契約の遂行、及びその後の物件の管理を自らの権限で行えるということなのです。
ただし、この信託を組む場合は、事前に建築を担う建設会社やハウスメーカー、及び借入先の金融機関と十分な打合せが必要です。

CASE.3 一族の資産の流出を回避したい場合(受益者連続信託)

具体事例

父親(80歳)が長男(60歳)とその妻(58歳)と同居しています。長男夫婦には子どもがいません。一方、別居している次男夫婦には子どもが一人います。
父親は自分が亡くなった後、長男夫婦には引き続き現在の土地で暮らしてもらいたいが、長男夫婦が他界した後は、先祖代々の土地でもあるので、孫(次男の息子)に継承してもらいたいと考えています。どのように対策すればよいでしょうか。

現在の状況 

  • 長男夫婦には子どもがいない。父親は現在長男夫婦と同居中。(家督相続重視)
  • 最終的に家の財産(不動産)は次男の子どもへ引き継がせたい。

家族信託を利用しないと・・・

長男の妻の遺言がなければ、財産の大半は長男妻の一族に引き継がれてしまう!

解説

家族信託の利用を考えた場合、父親を委託者とし、孫を受託者として、受益者連続型の信託契約を締結します。そのなかで受益者を次のように設定します。

  • 第1受益者:父親
  • 第2受益者:長男(父親が亡くなった場合・・・①)
  • 第3受益者:長男の妻(長男が亡くなった場合・・・②)
  • 残余財産の指定先:孫(長男の妻が亡くなった場合・・・③)

民法上の規定とは異なり、長男の妻の他界後は孫に財産が継承されるように指定することができます。
遺言は財産の継承先など一代限り(自分の財産を次に誰に渡すか)しか指定できません。つまり、「自分の次は息子、息子の次は誰と二世代以上先の相続人の指定ができないのです。信託の場合は、「受益者を先々まで定める」ことで、実質遺言と同じ機能を、二次相続以降にまでもたらすことが可能になります。

CASE.4 障がいを持つ子のために資産を遺す

具体事例

ある父親(50歳)と母親(48歳)の長男(20歳)は重度の障がいを抱えており、判断能力がありません。自活も困難とされており、日常生活でもサポートが必要です。両親には長男以外に子どもはいません。
両親は長男が今後暮らしていくために、不自由のない資産を遺すつもりですが、

①自分たちが亡くなった後、長男の入居する施設等お世話になる人たちに、きちんと報酬を支払い、しっかりと長男の面倒を見てくれることを託したい
②長男が他界した段階で、自分たちが遺した財産に余りがあれば、そうした施設やお世話になった周囲の人たちにわずかずつでも渡したい

という希望を持っています。①については成年後見制度の利用に任せるしかないと思っていますが、②は無理だといわれてしまいました。その父親と母親は「仕方がない」と諦めるしかないのでしょうか。

家族信託を利用しないと・・・

自分たち(親)が子どものために遺した財産が余るようなことがあれば、他に相続人がいない場合、国庫に納められてしまう。

解説

成年後見制度を利用することにより、判断能力のない長男に代わり、その生活が最低限保証されるよう家庭裁判所の監督下で財産の管理を行うことは可能です。
しかし今回の事例のように、成年後見制度においては、長男が亡くなった時点の財産をどう処分するかを後見人に託すことはできません。長男が自らの意思で遺言書を残すことができないため、長男他界時に残った財産は今回のように他に相続人がいなければ国庫に納められてしまいます。

家族信託制度を利用するとすれば、父親が委託者兼第一受益者、母親が第二受益者、そして長男を第三受益者とします(ここでは父親が母親よりも早く亡くなると想定しています。)そして信託の受託者を、信頼できる第三者(親戚等)にします。
信託契約書には、第三受益者の死亡時の残余財産(残った信託財産)をどこに帰属させるかを指定します。この帰属先として「お世話になった施設」「援助してくださった人たち」等を指定することができます。これにより、障がいを持つ長男に対する両親の想いだけでなく、長男を支援してくださった人たちへの感謝の気持ちも実現させることが可能です。

こうした信託の形態を特に「福祉型信託」と呼ぶ場合があります。福祉型信託の受託者は、家族の一員である親戚等でも構いませんが、今回の事例のように長男がまだ20歳である場合、長男が生涯を終えるまでの数十年間、しっかりと長男を支え、かつ長男他界時の信託内容をきちんと実行できる必要があります。そのため、受託者としては福祉団体、NPO法人といった非営利団体や信託会社など、組織として対応できる先を定めることが望ましいと考えます。